液体状の夕焼け

不自然な呼吸 世界一の秘密 悲しかったよ

ホドロフスキーのDUNE


映画『ホドロフスキーのDUNE』予告編 - YouTube

 

 『エル・トポ』さえ見たことのない不束者だけど、2014年はホドロフスキー・イヤーということらしいので、積極的にこのお爺ちゃんに触れてみたいと思う。その第一弾。

 

 とても痛快な映画だった。この人、自分の『DUNE』が未完成に終わったことなんて、少しも恥じていない。いや、計画が頓挫した直後は屈辱に塗れていたのだろうけど、デヴィッド・リンチのほうの『DUNE』が駄作だと分かった時の嬉しそうな顔!そこからまた創作へのエネルギーを取り戻す様が、なんとも人間臭くて愛らしい。

 しかしこの映画は、お爺ちゃんたちが「昔はよかった」と過去を回顧するような生ぬるい作品では、決してない。むしろ未完成に終わった作品を振り返ることによって、まだこの世界では具現化されていない創作の可能性を引き出そうとしている。あるいは、未完の『DUNE』を超える映画が未だに誕生しないことに対する喝なのかもしれない。

 僕自身、この映画からはとても強い勇気をもらった。未完成を恥じる必要なんか、どこにもない。それが偉大なる芸術であるならば、それを完成させるために費やしたエネルギーが、きっと世界を動かすのだ。『DUNE』から『エイリアン』や『スター・ウォーズ』や『マトリックス』や、その他幾多の名作が誕生したように。

 そして、完成できないことを恐れるよりも先に、完成させるために必要だと思うことは何でもやってみるべきだということを学んだ。それがどんなに荒唐無稽に見えたとしても。それが魂の戦士として唯一必要な条件なのだ(そして「魂の戦士」って表現が格好よすぎて痺れる)。

 

 現在、僕が会社で仕えているお爺ちゃんが、どことなくホドロフスキーに似ていると思った。そのお爺ちゃんは芸術的な思想の持ち主ではないし、ホドロフスキーのようなロマンチストというよりむしろ、資本主義社会で成功したリアリストなのだけど、なんというか、人たらしなところがそっくりなのだ。僕自身、無茶な要求をよくされるのだけど、存分にたらされているせいか、ついつい言うことを聞いてしまうし。

 そして豪快で人懐っこい笑い方。たぶん社会を変えるような仕事を成し遂げる人間は、みんなあんな風に楽しそうに笑うのだろう(あるいは心から一切笑わないかの二択かもしれないけれど)。本作で描かれているホドロフスキーブラックホールみたいで、その強烈な才能にたくさんの才能が吸い込まれていき、一つの小宇宙を形成していく。そのプロセスを垣間見せてくれるだけでも、この作品を見た甲斐があった。